秋葉神社祭礼・御巡行六尺と院号割引券

8月お盆が終わると街(本町、本町側北方、町浦) では秋葉神社氏(通称:あきばさん)の祭礼行事がある。宵宮の習日、お神輿の御巡行で町内を一巡する。

 宮敷大光寺の方丈様を先導に奉賛会長以下、町内の方々が参加するのだが行列の役割は大方決まっており、お神輿の担ぎ手である。“六尺”は若手がつとめることになっていた。行列に参加する人は、服装は自由であったが六尺だけはお神輿の担ぎ手ということで白衣の直垂に黒の烏帽子をかぶるいでたちである。秋葉神社のお神輿は小型ではあるが、前後左右4人の担ぎ手の身長が合わないと一方にだけ負担がかかり慣れないとなかなかうまく担ぐことができない。

 私が家業を継ぐため、千厩に帰ってきたのが昭和45年の秋だったが、翌年の祭礼より早速御巡行にかり出され、齢も二十代だったので当初より六尺が役目となった。その最初の時、御巡行の休憩所でのことである。いつもはにこやかな表情の熊常商店のご主人が至極真面目な面持ちで私に「白石さんは今日初めての六尺ですが、六尺を10回以上つとめると、大光寺さんより“院号の割引券”が生前にいただける事になっておりますから、これからもしっかり続けて下さい」と話されたのである。私は半ば冗談のつもりかなと聞いていたのですが、あまりにも真剣な語りつきだったので思わず“ハイ、わかりました”と真顔で答えた。

 その後何年か六尺をつとめていたのですが、ある年御巡行終了後の慰労会の席上、当時六尺をしきっていた昆金食品のご主人が、それまでお酒が入り座を盛り上げていたところ、急に改まった態度で「六尺の方々に申し上げます。従来の院号割引云々については10回ではなく、15回以上ですから、間違いのない様に」と、申し渡されたのである。六尺一同かしこまって承ったのだった。

 以後何年か御巡行の折々、新人に加わった六尺の方には、それとなく割引券のことを語り継いできましたが、町内にもだんだんと若い方が少なくなり、いつの年からか、お神輿も台車に乗せての巡行となりました。それでも一同、みこし廻りの何人かは六尺の装束で付き添う様になりましたが、いすしか私も歳をとって六尺の役目を卒業し先ぶれ太鼓の役目などを数回つとめました。この数年は御巡行にも欠席がちになり六尺への割引券授与の話もする機会はなくなっていました。

 昨年、今年と新型コロナの流行でコロナ祭礼、御巡行は中止となり本堂と神社での読経、ご祈祷だけになりました。私も久しぶりに参列し、礼拝の後に方丈様に「本町の都市伝説みたいな話ですが・・・」と、かの割引券の話を伺ったところ、「町のみなさんは、大変信仰心があついので、若い方にも神仏を大切にする様とのつもりで、そういう話をされたのでは」と話されたが、くだんの割引券については「私は先代の住職より、その様な話は全く聞いておりませんネ」と、穏やかな笑顔でやさしく一蹴されたのである。

かくして五十余年に渡る“六尺割引券の儀”は一件落着と相いなったのである。

ひぐらしの声を背に私は独り、参道を下った。「秋葉神社祭礼」が終わると街の夏も終わりである。

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